二者択一話法(選択話)とは、相手に2つの選択肢を提示してどちらが選ばれても自分の期待する結果が得られる会話テクニックです。
例えば、「商品Aと商品Bどちらを購入しますか?」といった営業トークがあげられます。これはABどちらを選んでも「商品を購入すること」が前提となり「どちらがいいですか?」ときかれた側は「どっちがいいだろう?」と考えてしまうので、無意識のうちに隠された前提が刷り込まれていくのです。
生命保険の営業で使いこなしたいトークテクニック:二者択一話法
二者択一話法(選択話法)とは、アメリカの精神科医ミルトン・エリクソンが精神科治療に用いた「選択肢の錯覚」という技法に由来しています。
「選択肢の錯覚」とは、症状を消失させる治療のために、選択肢のどれを選んでも「患者の症状消失」につながるようの工夫した問いを投げかける技法です。質問は以下のようなものがあげられます
- この症状が無くなるのは、2週間と3週間、どちらの方が現実的だと思うか?
- トランス(催眠状態)の入るなら今?それとも少し後?どちらが良いか?
このように、ミルトン・エリクソンは斬新かつ変幻自在なアプローチで次々と精神科患者の症状を焼失させていったことが有名ですが、患者に合わせて柔軟にアプローチを変えるべきと考えていたので、治療技法を体系化することはありませんでした。そのため、この「選択肢の錯覚」という言葉が広まったきっかけは、ミルトン・エリクソンでなくその弟子たちが、師のテクニックを自分のものにしようと研究する段階で用いたものとなります。
「選択肢の錯覚」は2択(ダブルで縛るバインド)ことからダブルバインド(二重拘束理論)と呼ばれることもありましたが、これに着想を経てグレゴリー・ペイトンが提唱したダブルバインド(二重拘束理論)とは異なった理論です。インターネットの記事でもこの二つを混同しているものがあるので注意が必要です。
トークテクニックを使いこなす!選択肢の錯覚の事例
ミルトン・エリクソンによる二者択一法の事例①:この症状が無くなるのは、2週間と3週間どちらが現実的だと思うか?
中々症状がよくならないのにいら立って来院してどうにか早く直してほしいと訴えた患者は、さぞ面食らったことでしょう。首をひねりながら「3週間」と答えたかもしれません。
この質問で大事なのは、症状が長期間治らなかった患者に対して、いつの間にか「この症状はなくなるとして』という前提を作ってしまっていることです。この前提が大切です。患者は症状がよくならないと頑固に訴えていたのに、この質問に答えた時点で「この症状はなくなる」という前提をいとも簡単に受け入れてしまうのです。この患者の症状は、3週間を待たずに消失するでしょう。
ミルトン・エリクソンによる二者択一法の事例②:あなたは今トランス(催眠状態)にはいりたいですか?それとも、この面接のあとの方がいいですか?
ミルトン・エリクソンの催眠は、その人が今までと違った考えや行動を発見できるように、それまで持っている思考や考えの硬さを程よく緩め、治療者の言葉に対して自然かつ本能的に適切な反応を示すせるような状態を作ることを意味します。多くの患者は催眠状態に入らされることに抵抗感や不安を抱きますが、この質問でいつの間にか「催眠状態に入るとして」という前提を作ってしまっているところが大切です。この患者もあっけなく催眠状態に入ったでしょう。
このように選択肢の錯覚ではこの「前提』が大切で質問に答えた時点で、提示された前提を受け入れてしまい、質問者の土俵に乗っているのです。
この二者択一話法は、、誰もが日常の様々な場面で知らず知らずのうちに使っています。
例えば、
「ご飯を食べる?お風呂にする?」「今日の夕食、そばとうどんどっちがいい?」
いずれにしても相手が、「いやひとまず横になりたい」、「いや寿司がいいかなあ?」と気軽に言える人には通用しませんが、提示した選択肢のどちらかを選んでくれる確率は高くなるでしょう。ただ、毎回同じ質問をしていると相手も何らかの意図に気づき、次第にこちらが提示した以外の選択肢を返答するようになってしまいます。
二者択一話法を「どちらかを選んでもらうことで、相手にNOを言わせなくする」テクニックとして使うと、できる誘導はこれくらいです。
前提を意識すれば生命保険の営業でも効果倍増
二者択一話法は、「選択させることではなくて、用意した前提を気付かずに受け入れてもらう」ことを意識すると効果が上がります。
例えば
ゲームする前にご飯にする?それともお風呂にする?
簡単に作れるものだと、
そばかうどんがあるけど、どっちがいい?
といった変換で、それぞれ以下のような前提を刷り込むことができます
- ゲームはご飯とお風呂のあと
- 簡単に作れるものしか作らない
妙に強調するのではなく、自然な会話の流れで話すことが大切です。
こうすることで、相手は選ばされていることもさほど意識せず、自分で自分の行動を決めているような感覚で自然に行動してしまうのです。
生命保険営業の仕事内容へどう活用するか
ビジネスでは相手にこちらの希望やセールスを受け入れてもらうことが重要になりますから二者択一話法の使いどころにはいろいろあります。
生命保険営業での二者択一法活用例①:セールストークで商品を買わせたい
セールストークに活用する場合は全く買う気のない相手や、強引な勧誘などには向きませんが、相手がいくつかの商品で迷っている時、少なくとも「買わない」という選択肢を消す効果には期待できます。この場合、「今日ここで商品を買うとして」が前提となります。
商品Aと商品Bなら、商品Aがお勧めです。こちらは3ヶ月くらい持ちますから。
それとも、短期間で効果の強い商品Bの方をお求めですか?
キャンペーンをやっていますから、商品Bなら1000円分のポイントが還ってきますね。
対象外の商品Aは、長期的なコストパフォーマンスがいいので、1年後の5月にはかえってお得になります。こちらのほうがよろしいですか?
などです。そして、あたかも「今日買うのが当然」と思い込んでいるように話すのがポイントです。
なお「今ならお得」などというと、「今お得だけど、あとで買えば損」という今買わない選択肢まで意識させてしまいますから使ってはいけません。
生命保険営業での二者択一法活用例②:アポを早めに取りたい
二者択一話法は、中々アポを取りにくい仕入れ先から、約束の日時を取り付けるような場面でも使えます。ここで刷り込む前提は「約束はなるべく早い日時に設定できた方がいい」です。
早ければ、来週の後半以降にお伺いできます。
次は再来週の後半になりますが、遅すぎるでしょうから、来週前半でも調整は可能です。
来週前半と後半なら前半のほうがよろしいですか?
などと尋ねれば、多くの場合来週の後半までには約束を取り付けられるでしょう。もし来週後半までお互いの都合がつかなかったとしても、大事なのは「約束はなるべく早い日時に設定できた方がいい」という前提を相手にうけ入れてもらうことです。
このように二者択一話法は、何らかの前提とそれに沿った選択肢さえ立てられれば、様々な場面に応用可能です。
生命保険営業での二者択一法活用例③:部下を動かしたい
中々動きが早くない部下を動かすときにも二者択一話法は活用できます。
今後の成長を考えると、仕事の優先順位を上司がつけるのは望ましくないものの、ある程度こちらがマネジメントしないと業務に支障が出る場合
業務Cを終わらせるには、作業Dからはじめるか、それとも作業Eから片づけたほうが効率良いだろうか?
などと質問します。相手は「業務Cを終わらせる」という前提を受け入れたうえで、2択から優先順位をつけて作業に取り組むでしょう。
ただしここで「まず業務Cを終わらせるとして」などと言ってしまうとこちらの手のひら(前提)を相手に明らかにすることになるので注意が必要です。
不得手なことで責めてしまうと労働意欲が下がってかえって非効率なのでこうした表現は控えることが得策です。
作業が何種類であっても自分で優先順位をつけて業務を片付けられれば、それが少しずつ自信につながり、成長のきっかけにもなると思います。
練習をしてコツをつかみ、生命保険の営業で使いこなせるようになろう
二者択一話法は、そもそもの「選択肢の錯覚」にあったエッセンス、前提を自然に受け入れてもらうことを意識させることによって、相手に強引さや不快感を与えずに、自然にこちらにとって好ましい変化や行動をとってもらえるテクニックでした。
テクニックというだけあって、上手な前提と選択肢の提示には、練習が必要ですから使って磨きをかけてみてください。